大塵塩蔵雑記帳

異常者大害虫の備忘録

レインボーホーリーの仲間のお話

 カラシンマニアの皆様、そして怪魚フリークの皆様もこんにちは。オオゴミカラトンボこと、バモス大塩だ。

 今回は、レインボーホーリーの仲間、こと、エリスリヌス属Erythrinusのお話です。みなさん、レインボーホーリー、お好きですか?

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お馴染み、レインボーホーリー

私の勝手なイメージながら、中型カラシンマニアからは、色ついてる、混泳に難あり、ハゼ、などと軽視され、怪魚、大型魚マニアからはタライロンの下位互換、初心者の怪魚、牙どこ?(笑)くらいに思われ、もちろん小型カラシンマニアからは無視されている、そんなお魚の印象だ。種類が少ない、というイメージもあるかもしれない。

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人気者、アイマラ君(今回はゲスト出演)

 しかし、今回の記事はそんな皆様に是非読んでいただきたい。いや、アナバス、ベタマニアの方や卵生メダカマニアの方ならきっと刺さるところがあるはずだし、何ならこれから初めて熱帯魚を飼うという人にも読んでもらいたいほどに、飼いやすく魅力たっぷりなカラシンなのである。

 まず、軽くホーリー全体について話そう。一般的にホーリーとはエリスリヌス科の3属、すなわちタライロンなどホプリアス属、レインボーホーリーなどエリスリヌス属、そしてストライプホーリーことホプレリスリヌス属を指す。分類学におけるエリスリヌス類と言った場合には近縁のタルマニア科(ミミズハゼタライーラとでも呼ぼうか…前向きの腹ビレを持ち泥の中に暮らす不思議な魚だ)種類の少なさ、というイメージを払拭するところから始めよう。おそらく、みなさんの中だとオレンジフィンキリーホーリーとパープルレインボーホーリーだけ、というイメージではないだろうか。昔からお魚をやっていらっしゃる方なら、パープルではない、レインボーホーリーというのもいたような…と覚えていらっしゃるかもしれない。ストライプホーリーは?と思われるかもしれないが、彼はまた別属、タライロンとレインボーホーリーの間というニュアンスのホプレリスリヌス属のため、また別の機会にお話させていただく。

では、実際のところ何種類いるのだろうか?実は、図鑑の上ではエリスリヌス属は2種類、たったの2種類とされている。Erythrinus erythrinusと、E. kessleriだ。オレンジフィンキリーはおそらく前者である。では、ケスレリーがパープルレインボーかといえば、そう単純にはいかない。ケスレリー種は状態の悪い標本しか残っておらず、まともな写真もなく、しかもブラジル、バイーア州固有種とされる。体には明色のスポットがあるとされるが、おそらく観賞魚ルートには未だ乗ったことのない種であろう。(サンフランシスコ川から青点の乗るものが来ていた気もするが…)

では、パープルは何者なのかといえば、おそらく未記載種、つまり生物学的にはまだ名前のついていない種である。そして、ここからが重要だ。これまでに輸入されたオレンジフィンキリー以外、つまり

 

・いつものペルー便パープルレインボー(顎に青、臀鰭に橙、全体的に薄紫)

・アマヤ産クリムゾンレッドホーリー(細身、体に黒線、全身は濃いオレンジ)

・コロンビア便パープルレインボーホーリー(太め、顎に青、全身は濃いオレンジ、メスは黒線を出すことも)

・ネグロ産レインボーホーリー(パープルに近いが全体に色が灰色がかり、ヒレが赤く細かい縞模様)

・ アリプアナ産タイガーレインボーホーリー( 焦茶色、全身にマダラ模様)

・エリスリヌスsp.(上のものと似る。細かな産地、インボイス違いか?)

 

は、おそらくほとんどが未記載の未知の種、あるいは亜種、少なくとも地域変異なのである。そして本属の分布は広い。北はガイアナ、南はブラジル南部まで記録がある。実際に先日公開された論文においては、イキトスに近いジャヴァリ川、そしてタパジョス、イキトス、パラナ、バイーア付近の大西洋岸河口域から、それぞれ異なる未記載種が得られたとされている。おそらく、南米にはまだ10種近く未知のレインボーホーリーがいるのではなかろうか。

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コロンビア便パープルレインボーホーリー

 

そして彼らは美しい。燻し銀に、赤や青のワンポイント、と言った渋い美しさの他の中型カラシンや、ワイルド感溢れる焦茶色のまだらの他のホーリーたちと異なり、それぞれの種が全身ベタ赤やメタリックブルーの顎、紫の体、黒いラインに黄色の斑点、長く伸びて縁が色づく背鰭など、小型カラシンに迫る原色系の美しさを兼ね備えるのだ。

その上彼らはお財布に優しい。タイガーホーリーこと、ホプリアスのマラバリクスグループの希少な産地のものが下手すると8万近くするのに対して、レインボーホーリーは悲しきかな、未記載、初産地でも3万前後がいいところである。

まだまだ未知の種がやってくる可能性があり、様々な発色を見せ、安価、とは何と良いカラシンであろうか。

 そして、またも驚きの事実がある。アナバスマニア様も、と言ったのはここからだ。カラシン、特に中型カラシンは流れを好み酸欠に弱いものが多いイメージがあるだろう。実際、ブリコンやパクー、アスティアナックスなど、渓流のような川を遡上する生態を持つ種は多い。

しかし、レインボーホーリーたちの好む環境は全く異なる。氾濫原や浸水森の乾季には枯れてしまう沼に暮らすのだ。ハイギョでもアナバスでもない彼らは乾季、どこに行くのだろう?ほかの氾濫原に入るカラシンたちは、乾季になる前に急いで本流へと帰る。これは、タイガーホーリーのような他の属のホーリーたちも同じだ。また、ピラニアなどは取り残された水溜りで小魚を限界まで食べ尽くし、ついには自分がオオカワウソにオヤツにされていることもままある。しかし、レインボーホーリーたちは生まれてから死ぬまで決してそこを離れない。彼らはハイギョのごとく、湿った泥に潜ってやり過ごすのだ。そう、実はタライロン含むエリスリヌス科の全てのホーリーは、浮袋を用いた空気呼吸が可能なのである。特に、ストライプホーリーことホプレリスリヌスとレインボーホーリーことエリスリヌスはこれが発達している。

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レインボーホーリー君より空気呼吸能力が高いとの噂があるストライプホーリー

 

この棲息環境が示す事、それは、彼らが低酸素でこなれた水を好むという事だ。彼らはベタの如くエアレーションと水流のない容器での飼育が可能である。45センチ規格程度の水槽に、マジックリーフと塩ビパイプでも沈めておけば、オレンジフィンキリー1匹程度なら問題なく飼いきることが可能であろう。実際、私は大きめのベタ飼育用の瓶にマジックリーフを沈めて飼育していたことがある。それでも特に問題が発生することはなかった。なにしろ野生下でも30センチ程度という彼らなので、水槽においては20センチを超えるものすら稀である。

もちろん、タウナギなど本当に強い魚と比較すれば、流石にカラシンである以上ある程度の管理は要求される。(半年間30度近い泥水に沈めても生きているタウナギはもはや生き物かも怪しいが)

しかしそれも、週2回の9割換水と冬場の保温程度だ。最近はベタ用ヒーターなどもあるので、かなりやりやすいだろう。もちろん、小さめの投げ込みフィルターでも放り込んでおけばメンテナンスの頻度はさらに低くできるので、余裕があるなら設置しても良いだろう。ただし、あまり水流をつけたり水面を揺らしすぎたりすると空気を吸いに浮上しにくいため、そこは注意したほうが良いかもしれない。

もちろん餌食いも大変良い。エリスリヌス科全体に餌食いはよいのだが、本属は特に人工飼料に餌付かない個体を見たことがない。

彼らのカラシンらしくない点としては、とてもよく慣れる点もある。これはタライロンやストライプホーリー含むエリスリヌス科全体としてその傾向にあるのだが、小ぶりで丸っこく、後述するが他属よりも浮いていることの多い生態を持つ本属のホーリーたちは、ふわふわと泳ぎ回って餌をねだったり、じっと両目でこちらを見つめてきたりと、シクリッドやスネークヘッドのような慣れ方をする。なお、私は指からタライロンに餌をあげたりするが、噛まれるととても痛いのでレインボーホーリーに留めておくことをお勧めしたい(笑)

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牙、痛めです。タライーラ君

 

彼らの大型カラシンとしては珍しい点として、雌雄が見分けやすい点もある。オスの背びれはメスと比べ大変よく伸びるため、成熟した個体であれば見分けるのは容易だ。なお、これは種内で比べないとよくわからないので注意。例として種としてヒレがよく伸びるオレンジフィンキリーホーリーのメスは、パープルレインボーのオスより長い、と言ったことがよくあるためだ。なお、おそらくホプリアス、ホプレリスリヌスにおいても同じである可能性は高いが、これら2属はそれほど顕著に伸長しないため、要確認である。なお、タイガーホーリーは国内でも産卵の話はあり、ドイツブリードも一応存在するため、おそらく本属の繁殖も狙えなくはないだろう。現地では釣り餌用のホプレリスリヌスや観賞魚用のホプリアスが養殖されているとの噂もある。

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現地ブリードとの噂が絶えないサンフランシスコタライロン君と同じラセルダエグループより、ブラックタライロン君

 

なお、ホプリアスにおいてはオスが卵を守ると聞くが、いつか繁殖も狙ってみたいと考えている。

最後に、彼らの野生下における興味深い生態について語ろう。オレンジフィンキリーホーリー、という名前はキリーフィッシュに似ているから、なのであろうが、これ、単に似ているという話ではないのだ。実は本属の魚類がリヴルス属のキリーフィッシュに攻撃的擬態している、という研究が存在する。具体的には、Erythrinus erythrinusの幼魚がRivulus agilaeのメスに擬態し、オスを誘引して捕食する、というものだ。なお、色彩的におそらくオレンジフィンキリーホーリーではなく、パープルレインボーなのではないか、と思うのだが、未記載なので仕方ないかもしれない。

以前の版をお読みの方はもう一種卵生メダカの名前を挙げていたことに気づくかもしれないが、そちらの論文を失念したので、とりあえずはこれで。

ここからは完全に私の妄想だが、これほど多様なレインボーホーリーが川ごとに分布しているのは、川ごとに異なるキリーフィッシュに擬態しているのではないかと思う。これ、生態学的に大変面白い研究テーマだと思うのですが、誰かやりませんか?私は魚の人ではないし、南米に行くお金もないのでね…

ほな、さいなら〜

 

参考文献

Aggressive Mimicry by the Characid Fish Erythrinus erythrinus ( André Brosset Ethology
Volume 103, Issue 11 p. 926-934)

Landscape Evolution Drives Continental Diversification in Neotropical Freshwater Fishes of the Family Erythrinidae(Teleostei, Characiformes) (Cristhian C. Conde-Saldaña, et.al Journal of Biogeography  19 August 2024)

 

ブリコンのお話⑦〜一種解説 ピラカンジューバ編〜

ブリコンマニアの皆様ご機嫌よう。オオゴミカラトンボ(大害虫)である。

ブリコン一種解説などというトンチキなことを初めて気でも狂ったか?と思われたであろうが、私は至って正常である。

その真意は、驚くべきことにピラカンジューバの入荷があったためである。ピラカンジューバ、またはピラピタンガと呼ばれるBrycon orbignyanus (この読み方がよくわからない。オルビグニアヌスでいいのだろうか…)は、これまでにピラカンジューバとして流通したことは一度もない。確認できる限りではなかがわ水遊園の個体と、2010年にパラナ川産ピラプタンガとして入荷したのが確認できる1匹のみであり、ほとんど流通はしていないと思われる。つまり、大変貴重なブリコンなのである。

本種はその魅力の割に知名度が低い。そこで今回はピラプタンガの陰に隠れてメジャーになれない本種の魅力を、最大限に伝えていきたい。たかがレッドフィンブリコンに10万はね…ではなく、ピラカンジューバが10万で買えるなんて!!と言わせたい。

まず、実物を見ないことには始まらないということで、ピラカンジューバの画像を以下に示す。

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私の撮影技術の低さにより、陰になって本来の色彩がボヤけてしまってはいるが、この画像からでも十分に本種の特徴が見てとれる。まず、ニュータイガードラド類のように尖ってツンと反った小顔、大型ブリコンらしい分厚い体、そして体に対して大きく、垂直な先端を持つ赤い尾鰭である。これらは本種の最大の特徴と言って良いだろう。

さらに追記するとすれば、白銀の体色が挙げられる。いわゆる尾鰭のみが赤い赤ブリタイプのブリコンでは、モーレイの背中やピラプタンガの体など、黄色味を帯びるものが多く、他の種も似たり寄ったりな黄色味の燻し銀と言った感じである。そんな中で本種はシルバードラド類の如き白銀の輝きを持ち、尾鰭の赤がモーレイのダークレッドやピラプタンガの朱色とも異なる紅色味の赤であることも相まって、一見アイシャドードラドのヒラリー(本物、ドラドのお話①参照)を思わせる一味も二味も異なるブリコンなのである。

ではここで、より魚類学的な観点からピラカンジューバを見ていこう。

前回も引用させていただいた A revision of the cis-andean species of the genus Brycon Müller & Troschel(Characiformes: Characidae) FLÁVIO C.T. LIMA は、アンデス以東のブリコンに関する最も新しく最も新しい総説論文である。今回も本論文をベースに見ていこう。

まず本種の分布だが、本来はパラナ水系とウルグアイ水系に分布していた。アルゼンチン北部まで分布する本種はブリコン最南端の種でもある。しかし、パラグアイ川にはピラプタンガのみが生息し、パラグアイ盆地で本種は見られないという。そのため、分布境界付近ではピラプタンガの方言であるピラピタンガが本種の名前となっている。しかし、では今これらの水系に行けばピラカンジューバに出会えるかといえば、実はほとんど出会えないと言って良いだろう。そう、ダム開発によってパラナ川ではポルトプリマベーラ・ダムとイタイプ・ダムの間の氾濫原を除き野生個体はほぼ絶滅状態であり、ウルグアイ川でもかなり数を減らしている。 浸水林や氾濫原、森の中の小川、下流域まで、600キロ以上もの回遊が確認されている本種にとって、ダムによる河川の分断は非常に深刻な問題なのである。

しかし、一方で狙って出会うことが簡単なブリコンの一つでもあるのだ。それは、本種が漁業や釣りのターゲットとして非常に重要であり、ブリコン属としては早期から養殖技術が確立されていた種であるためだ。80センチ近いブリコン属最大級の種であり尾鰭も大きな本種はおそらく強い引きがあるため、スポーツフィッシングでの人気もあるのだろう。本種は管理釣り堀でも釣れるようだ。今回奇跡的に輸入された個体も、もちろんこのブリード個体であるそうだ。

本種には生態的にも面白い点がある。そもそもブリコン属は基本的に前歯が大きく、その他の歯は非常に小さいのであるが、本種は前歯から奥歯にかけて徐々に小さくなっていくという奇妙な歯列を示す。さらに、口は比較的小さいのに対して頭はニュータイガードラドのように細く尖っているという奇妙な体のバランスを持つ。これは、おそらく本種の示す強い草食性への適応だろう。本種の個体数がまだ多かった時代の解剖による調査で、幼魚は小魚や昆虫も捕食しているようだが、成魚はほとんど木の葉、水草、果実のみを食べるコロソマ的な生態を持つことが明らかとなっている。600キロを移動する本種はアマゾン水系におけるレッドコロソマのように、パラナ水系の湿性植物の種子散布者として大きな役割を果たしていたのだろう。今後植生に与える影響が心配される。強い草食性は混泳においても有意義である可能性もあり、口に入る魚から入らない魚まで噛み殺す大型ブリコンが多い中で、比較的おとなしい可能性はある。しかし、草食魚には特有の縄張り意識の強さを見せるものも多いので、今後の観察が必要である。

次に本種の同定のキーである。まず赤ブリ色なので、シルバードラド風の体色をもつファルカタスやアマゾニカス、ゴールディンギやメラノプテルスとは区別できる。そして体型からアルブルヌスに代表されるニュータイガー系や、スピンドルドラードことポリレピスとは区別できる。そもそも南米大陸南部に彼らは居ないのだが。尖った頭が一見似ているモーレイもコロンビアを中心とした北方種のため、産地がわかればまず間違わない。しかし、レッドフィンブリコンとの違いがわからない!という方もいるであろうから、一応幼魚における違いを書いておく。

以下に示すのはコロンビアの赤ブリことモーレイ幼魚の写真と、尾鰭の模式図である。なお、左上はアマゾニカスなので無視してほしい。

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そして、次に示すのはピラプタンガとピラカンジューバの幼魚である。ピラプタンガの幼魚の画像をあいにく私は持っていなかったため、ご提供いただいた。大変ありがとうございます。

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ピラプタンガ

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ラカンジューバ

まず、尾鰭の黒帯に注目してほしい。黒帯が先細りせず、尾鰭先端に対して垂直な黒一文字となるのが、ピラプタンガとピラカンジューバの特徴である。対してモーレイは黒が先細りする。ピラプタンガとピラカンジューバの違いであるが、ピラプタンガは丸みを帯びた愛嬌のある顔つきをしており、黒帯が体の真ん中付近まで薄く伸長するので容易に見分けがつく。

最後に、本種の魅力をまとめていこう。高画質な若魚の動画を見つけたので貼っておく。

https://youtu.be/7uPg_sune2c?si=VC9wvSEr4K9nQG1G

まず、顔まで白銀のギラギラとした体色と紅色の大きく半月型の尾鰭、太くはっきりとした真っ直ぐな黒帯、小さく尖った厳つい顔つき、大型魚混泳に入れても見劣りしない巨体、ユニークな食性と、ドラードの偽物の偽物、なんてとても言えない非常に魅力あふれるブリコンである。

そんな本種は、今回、アクアリュウム ペスカドールにのみ入荷している。https://pescador.shop/project/

ブリコンはすぐに大きくなるため、発送のリスクは日々高くなっていく。興味を持たれた方はお早めの購入をおすすめしたい。もちろん可能な方は店舗に行って気に入った個体を選び抜くのが1番だ。あなたの水槽でも、パラナ川のプラチナの輝きを磨き上げてほしい。

これは余談であるが、本種はアナカリスと分布が大きく重なる。水草を餌として好む本種の水槽に餌兼レイアウトとして入れれば、生息地の趣が出せるかもしれない。アナカリスにもはや南米南部の趣を感じられる人がいるのか、という話ではあるが。

 

 

 

ブリコンのお話⑥〜ホロブリコンsp.ペルーを同定する〜

中型カラシンマニアの皆様、一段と冷え込みが激しい今日この頃、いかがお過ごしだろうか?

さて、今回は皆さんお馴染み(?)ホロブリコンsp.ペルーについて。

先に言っておくと、今回はブリコンの解剖画像がある。まあ基本的に骨と歯だけなので別に血だの臓物だのは出てこないが、魚も捌けぬ心優しき方も世の中には居られるようだから、念の為に忠告しておく。

まず、ホロブリコンとはなんぞや、というところから話を進める。結論を先に申すが、現在ホロブリコンという属は無い。ホロブリコンは現に流通してるだろ!と言われそうだが、それを言うならばすでにトリゴノスティグマに移ったエスペイもトリゴノポマに移ったキンセンラスボラもラスボラで流通しているではないか。カタカナになった時点でもう学名ではなく、流通名なのだ。そこに、命名規約も魚類学も入り込む先はない,仕方のない話だ。

そもそも、ホロブリコンにはペスとイクイテンシスという2種が記載されていた。で、ホロブリコンはどこにいったのかといえば、ペスの方はブリコンに内包された。系統的位置としては、ニュータイガードラド類といわゆるブリコン類の間と言った感じで、まあブリコンに含まれて当然と言ったところだ。

一方、イクイテンシスの方が少し複雑で、タイプ標本はひとまずヒラリードラドの幼魚とされ、長いことそのままであった。しかし、近年アイシャドードラドに未記載の2種が含まれることが判明し、その記載の過程で、ホロブリコン イクイテンシスのタイプ標本とされていたものが実はその一方の種の最古の標本であったことが判明した。学名には先取権というものがあり、基本的に先についた学名が優先される。新種のドラドはすでにホロブリコンとして記載されていたので、属の変更という形でイクイテンシスが復活し、結果的にオリノコのアイシャドードラドの種小名としてイクイテンシスは残る形となった。

ドラドの新種であったイクイテンシスは前回の記事で語ったので、今回は無視することとし、ペスの方について話を進めよう。

ペスは南米の多くの水系に分布する最大15センチ程度の最小のブリコンであり、水面で群れをなし主に昆虫を食べるイワナのような食性であるようだ。このペス、実は体色や体の長さにかなりの地域差があり、ペス種複合体(ごく近縁な種の複合体)として扱われているのが現状である。おいおい各水系のものが別種として記載されていくことを信じ、それを待つしかないようだ。 

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この画像は、元記載に近しい姿をした典型的なペスだ。脂ビレは透明で尾鰭の上葉下葉先端に黒い模様が入るのが特徴である。腹ビレは青いものと赤いものが見られるが、これは一説には水深によって異なるとされるもので、野生下でも相互交配がごく普通に起こるため遺伝的なものでは無いようだ。実際、赤いものを買ってきても青くなった経験が私にもある。

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そしてこれが、問題のsp.ペルー。実は海外サイトではこのタイプもペスとして扱うところが複数見られる。一方でアフリカンパイクカラシンのような細かい筋の入る尾鰭や真っ黒で丸い脂ビレなど、先程のペスとは十分に異なる特徴を示している。

そこで,今回この魚のできる限りの同定を試みた。幸いなことに(幸いか?)、飛び出しや病気で死んだホロブリコンだのブリコンだのが冷凍庫にいくつかあったので、これらの標本を用いた正確な検討が可能だった。

彼らの犠牲に感謝を示そう。実験動物をサクリファイスしたと書かなければ査読も通らないような現代においては(もちろんそうでなくても大切ですよ…)大切なことだ。

参考文献としては、現在最も新しく最も詳しいニュータイガードラド類を除くアマゾン盆地のブリコンの検索表を含む

A revision of the cis-andean species of the genus Brycon Müller & Troschel(Characiformes: Characidae)
FLÁVIO C.T. LIMA
Museu de Zoologia da Universidade Estadual de Campinas “Adão José Cardoso”, Caixa Postal 6109, 13083-863,
Campinas, São Paulo, Brazil.

の全文を著者より頂くことができたため、こちらを使用した。ご厚意に大変感謝する。

さて、そもそも最初に彼らは本当にブリコンなのだろうか。これは確認するまでもない気がするが、実際に過去にブリコン近縁属(内包されるという説もあるが…)であるキロブリコンとして輸入された魚が、無関係なデウテロドン属のカラシンであった事例がある。そこで、まずはブリコン属の同定形質から再確認を兼ねて見ていく。今回使用した標本は、コロンビア産のブリコン モーレイ、記載通りの外見のペス、そしてsp.ペルーである。

 

さて、ブリコン属の同定形質であるが、意外にも歯なのである。多くのカラシン類は上顎に二列の歯を持つのだが、ブリコン属、トリポルテウス属(エロンケートハチェット)など一部のカラシンは三列の歯をもつ。トリポルテウスは腹部が張り出すため簡単に識別できるため、ブリコンらしい見た目に三列の歯を持つなら基本的にブリコンとみなして良いだろう。

では、まず間違いなくブリコンであるモーレイを確認してみよう。前の一列と1番内側の一列の間に、左右二対の歯があるのがお分かりであろうか。典型的なブリコンの歯列である。

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次にペスを見てみよう。色が薄くて見えにくいが、モーレイと同じ真ん中の二対があるのがわかる。紛うことなきブリコンである。
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さて、sp. ペルーである。こちらもよく見えない上、標本の状態が悪くモーレイ色になっているが、sp. ペルーである。こちらもよく見ると、歯が三列並んでいるのがわかる。とりあえずブリコンではあるようだ。
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(余談)

ここまで読んでいるあなたは相当な物好きだと思うのだが、物好きついでに。手元に30センチ越えのブリコンの死体(実は生きててもうまく保定して口を開ければ見えるのだが、噛まれると流血するので…)があって確認したくなった異常者の方へ。特にメラノプテルスやアマゾニカスの場合、おそらく歯は二列しかないと思われる。この特徴から彼らはじつはMegalobryconという別属で記載されたことがある。結局、老化して歯抜けになった(悪口)ブリコンということでブリコン属にまとめられたのだが、一部の大型種は大型化すると歯が抜けることも覚えておいてもいいかもしれない。

(余談終わり)

 

ところで、sp. ペルーなのだがペルーのどこから来ているのか不明なため、もしアンデスの西側から来ていた場合この検索表の範囲外である。しかし、アンデスの西のブリコンはほとんどがニュータイガータイプなので小さいながらもブリコン体型のホロブリコンは検索表の範囲内と見なすこととする。さて、検索表を見ると、最初は泉門の有無から始まる。泉門が閉じているのがペスで、開いていればその他のブリコンという、ペスのキーとなる形質だ。泉門とは、頭蓋骨の左右の縫合線の間にある隙間である。

ではまずモーレイから。白く軟組織で埋まった泉門が見られる。モーレイはペスではない。当然だ。

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次にペスである。ぼやけているが、縫合線がピッタリ閉じているのが見える。ペスはやはりペスであった。
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そして問題のsp. ペルーである。縫合線がピッタリとじ
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ドラドのお話① そのアイシャドードラド、アフィニスか?ヒラリーか?

皆様こんばんは。今日は気分がいいので1日で2記事も更新できてしまう。驚きである。

さて、せっかくブリコンの話をしたのだから、同じブリコン科繋がりでドラドの話をしたい。最初はしばらく無駄話なので、嫌な人は写真まで読み飛ばしてほしい。

少し前まで、私はドラコンプ、なる謎の目標を掲げていた。これは某アクア雑誌の企画、タコンプを真似してブリコンプ、といきたかったのだが、そもそも何種居るのかも怪しい属をコンプリートなどあまりにも難易度が高い。そこで、既知種が4種(と、その時は信じていた)で、かつ全て日本への輸入実績のあるドラコンプを、なんて考えたわけである。語呂は台無しだが仕方ない。

と、いうわけで、私が集めたドラドたちの画像を以下に貼るのでとりあえず見ていただきたい。

 

ブリコンのお話⑤〜コロンビアの赤ブリ概説

ブリコンマニアの皆様、ご機嫌いかがだろうか。

コロンビア以外のブリコン、というか中型カラシンの輸入が少なく寂しい今日この頃だが、せっかくなのでコロンビアのブリコンを楽しもう、ということで、今回はいわゆるコロンビアの赤ブリを解説しようかと…

基本的なこととして、コロンビアから来る赤ブリはおそらく4種、あるいは3種が含まれていると思われる。

Brycon moorei

B. melanopterus

B. amazonicus

B. sp (cf. behreae?またはcf. moorei sinuensis?)

ただし、最後の一種に関してはかなり不確かな情報しか得られていないため、かなり信憑性には問題があることを先に述べておく。

また、仮にピラプタンガという名前で輸入されても、それは決してBrycon hilariiではないことも重要だ。たしかにヒラリーの分布は広くコロンビアからも知られるが、これまでにコロンビア便で本物のピラプタンガが来たことはおそらくない。できれば、ピラプタンガと偽るのではなく、等身大の彼らを評価してあげてほしい。それぞれに美しい魚なのだ。

さて、コロンビアからブリコン幼魚が入荷した際、最初に確認すべきは尾鰭の色である。おそらくピラプタンガ Brycon hilariiのようなオレンジを帯びた明るい赤のものと、紫に近い暗い赤またはくすんだ赤のものが見られると思う。

 

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奥の1匹に注目、紫がかった赤である。

 

仮に貴方が鮮烈な赤のタイプを買ったとする。その場合、可能性は2つ、B. mooreiかB. spである。

彼らが本当に別種なのかははっきりしないのであるが、成魚になった際に①『明らかに体に対して尾鰭が大きく、体高は低め、尾柄部の黒線が臀鰭に沿って下がり尾鰭の赤がくすむタイプ』と、②『赤は成魚になってもはっきり、個体によっては体高がかなり高く、尾柄部の黒線は中央を通り相対的に尾鰭が小型のタイプ』が存在している。

 

ほぼ同サイズ若魚のタイプ①とタイプ②

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イラスト

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コロンビアに分布記録のあるブリコンから考えた場合、②はほぼ間違いなくモーレイなのであるが、①が問題となる。幼魚時の目がオレンジがかる点含め、特徴はB. behreaeによく似るが、本種はパナマコスタリカにしか分布しない中米のブリコンなのである。コロンビア北端はパナマと接するため分布する可能性はゼロではなく、また食用、釣り魚としての移植の可能性もあるため否定はできないが可能性は低いだろう。また、本種幼魚と見られる画像はいかにもな細身系ブリコンであり、レッドフィンに混ざるタイプには見えない。

タイプ②と同種のアンデス東側のシヌー川亜種であるB. moorei sinuensisはネット上に間違いなく本亜種と言える画像がほぼなく基亜種との違いが記された文献も見つからないのであるが、フィッシュベースの画像では低い体高やくすんだ赤の尾鰭が見られ、こちらも特徴がよく一致する。分布はコロンビア東部であるため、コロンビアの東部と西部の魚が中間のアンデスにあるボゴタのシッパーで混ぜこぜにされて輸出された結果として両亜種が混在している可能性もある。

そして、第3の可能性として、そもそも未記載のブリコンという説もある。個人的にはコレなんじゃないか、と思っているところではあるが、詳細は現地に行かない限りわからないであろう。南米行きたい…

一応モーレイの解説をしておくと、現地名はドラーダ、条件が良いと背鰭の後ろ、脂ビレの上にかけて黄金に輝き、顔は少しスプーンヘッドぎみ、鰓蓋はオレンジに染まり、最大53センチと大型である。本物の赤ブリや、偽ピラプタンガと呼ばれる本種だが、私としてはドラーダと呼んで愛してやって欲しい魚である。

そんな、本2タイプを幼魚で見分けるのは至難の業であるが、不可能ではない。雑なイラストで申し訳ないが、以下のイラストを参照してほしい。

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まず、尾柄部の斑点はこの長い形が基本である。もし、鮮烈な赤い尾鰭でも斑点が以下の2つのいずれかなら、それは発色の良いアマゾニカスかメラノプテルスである。

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長楕円形の斑点をもし持っていたなら、次は顔を確認してほしい。

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誤差のような違いだが、よりいかつく細身の下側のような顔で、虹彩がオレンジなら、おそらくタイプ①である。より丸みのある優しい顔で虹彩のオレンジが目立たないなら、タイプ②の可能性が高い。

 

次に、貴方がくすんだ赤タイプを購入したとしよう。マグダレナ水系の場合は、以下の2タイプが見られるはずだ。

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この場合、上のタイプはアマゾニカス、下のタイプはメラノプテルスとなる。

私の飼育するアマゾニカス若魚の画像を貼っておく。顔が写っていないが。胸ビレ腹ビレが黒ずんでいるのに注目。

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メラノプテルスは飼育していないため画像がないのだが、ジャックナイフテトラの模様をそのままブリコンに移したような魚である。胸ビレ腹ビレが透明な点も特徴だ。

成魚の尾鰭を以下に図示すると、上がアマゾニカス、下がメラノプテルスだ。

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彼らはハズレの黒ブリと呼ばれ軽んじられているが、明るいシルバーが眩しい燻し銀の魅力があると私は思う。一応彼らも解説しておく。

アマゾニカスは、最大46センチと大型、顔は丸く、尾鰭にはっきりとした模様を持たず暗い紫。臀鰭は青い光沢を有する。体高は比較的高く、胸ビレ腹ビレは黒ずむ。なお、本種は大変分布が広く、オリノコからアマゾン本流まで南米各地から入荷する。下流の濁った緩やかな流れでは本種が優先することが多い。また、ネグロ川の本種そっくりの魚はセファルスという別種とされていたが、シノニムになっている。もし黒ブリに変わる呼び名を提唱するなら、ダークレッド、紫、青、銀の光沢を有することからパープルレインボーブリコンとでも呼ぼうか(冗談)、ハズレと言わず評価してほしい魚だ。現地名マトリンシャン、ボコンなど。

メラノプテルスは、最大38センチと中型、顔、体共に丸みを帯びており、鰓蓋上部にオレンジのスポットと可愛らしい。臀鰭から尾鰭上部にかけてはっきりと、または微かに繋がった黒線があり、ジャックナイフテトラのお化けといった様相を呈する。なお、ここが繋がらないのはファルカタスという別種であるが、コロンビアから入荷するイメージはない。胸ビレ腹ビレは黒く濁らず、清流に多く生息する。産地によって多少模様には違いがあると思われる。個人的には当たりの黒ブリだと思っている。現地名クーティー、マトリンシャンなど。

 

今回はコロンビアの赤ブリたちを解説した。種類がわからない、みんな一緒、ピラプタンガの偽物、大型魚混泳の緩衝材などと言わず、ブリコンの混泳を楽しんでほしい。それでは…

 

オイカワは『雑魚』なのか、というお話

一昔前まで日淡関係のサイトには良く、オイカワとカワムツはZaccoという属に含まれているが、これは日本語の雑魚に由来している、といった文章が見られたものだ。

しかし現在、オイカワはハス属Opsariichthysに、カワムツはタイワンアカハラ属Candidiaである、との記述をよく見かける。カワムツ属の方は、 I. Chen, Jui-Hsien Wu, Chi-Hsin Hsu(2008)にて、ミトコンドリアDNA(以下mtDNA)による分子系統解析で、カワムツ属Nipponocyprisという新属に移動され、中坊編 (2013)にて、タイワンアカハラ属Candidiaに統合すべき、と提唱され Huang et al. (2017)に分子系統によりやはり別属とすべき、との見解が示されているため、その帰属は定まらないながら、その変遷は見てとれる。

これは個人的な見解だが、ヒゲをもつタイワンアカハラ属と無いカワムツ属は、タナゴの例に従うわけでは無いが、別属とすべきと思っている。

一方でオイカワは、I. Chen, Jui-Hsien Wu, Chi-Hsin Hsu(2008)でザッコに留まった後、特に論文での記載なしにいつの間にやらハス属に移っていた印象である。

ではここで、fish baseでの記載を見てみよう。fish baseは国際的な魚類データベースであるため、国際的に主流とされる学名の確認にはうってつけである。するとどうであろうか、オイカワの学名は Zacco platypus、カワムツの学名はNipponocypris temminckiiとなっているでは無いか。オイカワの属名の由来がレオ帝のザッコソードとなっているなど怪しい点はあるのだが、そこは置いておく。カワムツの方は不安定ゆえ仕方ないとして、オイカワの属名はザッコが国際的な主流なのだ。これは妙なことである。オイカワはハス属ではなかったか。

次に、いくつかの分子系統樹を見ていただきたい。

https://lkcnhm.nus.edu.sg/wp-content/uploads/sites/10/app/uploads/2017/04/s19rbz203-214.pdf

https://link.springer.com/article/10.1007/s10641-009-9499-y

ファーストオーサーが同じであることからわかるだろうが、同一グループにおけるそれぞれハス属、カワムツ属を中心としたmtDNAおよび形態による系統樹を示した研究である。前者はオープンアクセスだが、後者は異なるため、所属機関からご覧になるか、あるいは系統樹の画像は検索から見られるのでご確認いただきたい。

さて、どちらにせよ、オイカワ属ハス属複合体と、カワムツ属タイワンアカハラ属ニジカワムツ属(Parazacco)複合体の二つの単系統群の存在が見て取れる。そのうち、オイカワ属ハス属複合体をご確認いただきたい。

ハス属に登場する学名を解説すると、Opsariichthys bidensがコウライハス、Opsariichthys evolansがタイワンオイカワの緑の方、Opsariichthys pachycephalusがタイワンオイカワの青い方、Opsariichthys kaopingensisがカオピンオイカワ、opsariichthys uncirostrisがハスで、 Opsariichthys acutipinnisがチュウゴクオイカワ、 Opsariichthys hainanensisはハイナンハスである。そして、重要なのが、Zacco platypusがその全てに対して外群である点である。これはすなわち日本のオイカワは、全ての他のオイカワ・ハス類の姉妹群であることを示している。

このことから、日本のオイカワのみで構成されるオイカワ属はハス属に対して単系統をなしており、同属にあえて組み込む必要性はないのである。実際、日本以外の『オイカワ』はハス属としてfish baseにも記載されており、やはりオイカワをOpsariichthysとして扱う日本独自の慣例は、系統的にもあまり意味をなさないと言えるだろう。もちろん、本種を含めた大きなハス属、とするのも無しでは無いだろうが、本種を除けばハス属は二つの大系統からなるまとまった群となるため、やはり本種は別属としておいて問題なさそうだ。

このオイカワをハス属として扱う風潮は、とある図鑑の記述が発端、という話もあるが、詳しいことを知らないのでここでは触れない。

もちろん、交雑が確認されており一部では3種間交雑も確認されているこれら5属がごく近縁なことは否定しようの無い事実であることも追加しておく。

おまけに私が撮影したオイカワの産卵を

https://youtu.be/mRhc0eG1co4?si=DmhGBeLz-_9K30tF

サムネイル用のオイカワとカワムツ

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ブリコンのお話④ 〜ドラド系ブリコン〜

 皆様、お久しぶりです。

ブリコンのお話もついに第4回になるが、ここからは特徴ごとに魅力的なブリコン達をいくつかのグループに分けて紹介していきたい。

 初回となる今回は『ドラド系のブリコン』を紹介したい。まず、実を言うとドラド系ブリコンなどという概念は魚類学にも熱帯魚界隈にも存在しない。何故なら今私が作った言葉であるからだ。

 それでは私がどのような魚をこのグループに想定しているのか、というと、いわゆるドラドカラシン(Salminus)を思わせるような、低い体高と尖った頭を持つブリコン達である。私が彼らをドラド系と名付けたのにはもう一つ理由があり、彼らは〇〇ドラドとして時にはドラドカラシンの一種として流通するためである。

 近縁なBryconとSalminusの2属だが、その違いについてよく、『草食のブリコン、肉食のドラド』などと言うことがある。実際ブリコンは水草や木の実、飼育下では葉野菜なども好んで食べる。しかし、草食というのは言い過ぎであり、多くのブリコンは小魚も好んで捕食する。この肉食性にはブリコン属内で種ごとに大きな差があり、有名なピラプタンガなどは草食性の高いものと思われる。一方、ピラプタンガの丸い顔とは対照的な尖った顔と裂けた口を持つブリコンも存在し、彼らは強い魚食性を持つと思われる。そのようなものを、私はドラド系ブリコンと呼びたい。まあ、私がニュータイガードラドにバナナを与えてみたところ普通に食べていたので所詮ブリコン、といった感じだが…

 さて、このタイプのブリコンはここ数年入荷がない。つい最近おっ?と思うような物が来ていたが、1匹のみの入荷でさらに通販に出る前に売約されていたため、未入手である…

このタイプに含まれるブリコンの流通名として私が確認しているものは、ニュータイガードラド、キングドラドフィッシュ(⁈)、スピンドルドラードなどである。ただ、スピンドルドラードはドラドとして流通したためここにまとめたが、魚食系ブリコンでないのでこのグループで良いのか微妙ではある。加えて、もう一つ言っておくとタイガードラドという名前で流通する魚にはオリゴサルクス属のものもあり、ブリコン属のものはエクアドルからくるニュータイガー名義のもののみである点である。

このうち、おそらくニュータイガードラドはエクアドルに分布する顔尖りブリコン3種であるBrycon alburnus、B. dentex 、B. atrocaudatus周りの種であり、スピンドルドラードはBrycon nattereri類似種ではないかと思う。

※追加 スピンドルドラードだが、おそらくBrycon polylepisであると思われる。分布、特徴ともにほぼ間違いないであろう。

なおニュータイガー3種は臀鰭条数で明確に見分けられるので、気になる人は数えてみると良い。キングドラドフィッシュに関しては、分布域における類似種を見つけられなかった。以下は筆者が以前飼育していたB. alburnusと思われる個体である。他2種は、私はあいにく画像を持ち合わせないため、検索していただきたい。共にスレンダーで美しいブリコンたちである。

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無駄話〜ブリコンの分類①〜

ここからは蛇足なので、分類学的なことに興味のある人だけ読んでもらえたら良いのだが、実はニュータイガードラドに関しては、本当にブリコンで良いのか?という分類学上の問題が存在している。

以下の二つの分子系統解析を見ていただきたい。系統樹のところのみで良い。

https://bmcecolevol.biomedcentral.com/articles/10.1186/1471-2148-14-152

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cla.12345

ブリコン属が、サルミヌス属(ドラード)によって二つに分断されているのがお分かりいただけただろうか?系統分類のみを正式な分類と認め、側系統群を認めない現在主流の分類学の考え方によれば、ブリコン属は単系統でないため正当な分類学ではないことになってしまう。

 この問題点を是正する場合、二つのアプローチがあり、一つはサルミヌスやキロブリコンを無効名として抹消し全てをブリコン属にまとめる、そしてもう一つが、ブリコン属模式種(その属の基準となる種)であるB. falcatusを含まないサルミヌスの上に配置されたブリコンたちを別属とする方法である。前者はブリコン一般と系統的に十分な差異があり、形態でもしっかりまとまったグループであるサルミヌスを抹消するなど現実的でないため、後者が推奨される対応であろう。

その、別属になるべきグループにはアンデス山脈周辺に分布するブリコン数種が含まれるが、①の研究を見るとなんとB aff. atrocaudatusが含まれるではないか。aff.とは、その種に似ているが未記載の可能性がある種、であり、つまり上記3種周り、つまりニュータイガードラドと呼ばれるものである可能性が非常に高い。そしてエクアドルといえばアンデスを挟む小国である。よって、ニュータイガードラドは今後ブリコン属から外れる可能性が十分に高いということは頭に入れておくと良いかもしれない。

簡潔にまとめると、実はニュータイガードラドと他のブリコンよりも、ドラドと他のブリコンの方が近いかもね、といった話である。まあ、今後の研究次第であり話半分に聞いておいてほしい。