大塵塩蔵雑記帳

異常者大害虫の備忘録

ブリコンのお話④ 〜ドラド系ブリコン〜

 皆様、お久しぶりです。

ブリコンのお話もついに第4回になるが、ここからは特徴ごとに魅力的なブリコン達をいくつかのグループに分けて紹介していきたい。

 初回となる今回は『ドラド系のブリコン』を紹介したい。まず、実を言うとドラド系ブリコンなどという概念は魚類学にも熱帯魚界隈にも存在しない。何故なら今私が作った言葉であるからだ。

 それでは私がどのような魚をこのグループに想定しているのか、というと、いわゆるドラドカラシン(Salminus)を思わせるような、低い体高と尖った頭を持つブリコン達である。私が彼らをドラド系と名付けたのにはもう一つ理由があり、彼らは〇〇ドラドとして時にはドラドカラシンの一種として流通するためである。

 近縁なBryconとSalminusの2属だが、その違いについてよく、『草食のブリコン、肉食のドラド』などと言うことがある。実際ブリコンは水草や木の実、飼育下では葉野菜なども好んで食べる。しかし、草食というのは言い過ぎであり、多くのブリコンは小魚も好んで捕食する。この肉食性にはブリコン属内で種ごとに大きな差があり、有名なピラプタンガなどは草食性の高いものと思われる。一方、ピラプタンガの丸い顔とは対照的な尖った顔と裂けた口を持つブリコンも存在し、彼らは強い魚食性を持つと思われる。そのようなものを、私はドラド系ブリコンと呼びたい。まあ、私がニュータイガードラドにバナナを与えてみたところ普通に食べていたので所詮ブリコン、といった感じだが…

 さて、このタイプのブリコンはここ数年入荷がない。つい最近おっ?と思うような物が来ていたが、1匹のみの入荷でさらに通販に出る前に売約されていたため、未入手である…

このタイプに含まれるブリコンの流通名として私が確認しているものは、ニュータイガードラド、キングドラドフィッシュ(⁈)、スピンドルドラードなどである。ただ、スピンドルドラードはドラドとして流通したためここにまとめたが、魚食系ブリコンでないのでこのグループで良いのか微妙ではある。加えて、もう一つ言っておくとタイガードラドという名前で流通する魚にはオリゴサルクス属のものもあり、ブリコン属のものはエクアドルからくるニュータイガー名義のもののみである点である。

このうち、おそらくニュータイガードラドはエクアドルに分布する顔尖りブリコン3種であるBrycon alburnus、B. dentex 、B. atrocaudatus周りの種であり、スピンドルドラードはBrycon nattereri類似種ではないかと思う。なおニュータイガー3種は臀鰭条数で明確に見分けられるので、気になる人は数えてみると良い。キングドラドフィッシュに関しては、分布域における類似種を見つけられなかった。以下は筆者が以前飼育していたB. alburnusと思われる個体である。他2種は、私はあいにく画像を持ち合わせないため、検索していただきたい。共にスレンダーで美しいブリコンたちである。

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………………………………………………

無駄話〜ブリコンの分類①〜

ここからは蛇足なので、分類学的なことに興味のある人だけ読んでもらえたら良いのだが、実はニュータイガードラドに関しては、本当にブリコンで良いのか?という分類学上の問題が存在している。

以下の二つの分子系統解析を見ていただきたい。系統樹のところのみで良い。

https://bmcecolevol.biomedcentral.com/articles/10.1186/1471-2148-14-152

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cla.12345

ブリコン属が、サルミヌス属(ドラード)によって二つに分断されているのがお分かりいただけただろうか?系統分類のみを正式な分類と認め、側系統群を認めない現在主流の分類学の考え方によれば、ブリコン属は単系統でないため正当な分類学ではないことになってしまう。

 この問題点を是正する場合、二つのアプローチがあり、一つはサルミヌスやキロブリコンを無効名として抹消し全てをブリコン属にまとめる、そしてもう一つが、ブリコン属模式種(その属の基準となる種)であるB. falcatusを含まないサルミヌスの上に配置されたブリコンたちを別属とする方法である。前者はブリコン一般と系統的に十分な差異があり、形態でもしっかりまとまったグループであるサルミヌスを抹消するなど現実的でないため、後者が推奨される対応であろう。

その、別属になるべきグループにはアンデス山脈周辺に分布するブリコン数種が含まれるが、①の研究を見るとなんとB aff. atrocaudatusが含まれるではないか。aff.とは、その種に似ているが未記載の可能性がある種、であり、つまり上記3種周り、つまりニュータイガードラドと呼ばれるものである可能性が非常に高い。そしてエクアドルといえばアンデスを挟む小国である。よって、ニュータイガードラドは今後ブリコン属から外れる可能性が十分に高いということは頭に入れておくと良いかもしれない。

簡潔にまとめると、実はニュータイガードラドと他のブリコンよりも、ドラドと他のブリコンの方が近いかもね、といった話である。まあ、今後の研究次第であり話半分に聞いておいてほしい。

ブリコンのお話③

今回は皆さんの待ちに待っていたであろう、ピラプタンガのお話である。

ピラプタンガ piraputanga はブリコン属の中で最も名の知れたものの一つであろう。学名は Brycon hilarii である。パラグアイ川パラナ川が主な生息域である。日本ではピラムタンガと呼ばれることもあるが、ピラプタンガが綴りとしても現地の発音(動画を見る限り)でも正しい。その名は先住民の言語で、赤い魚を意味する。なおピラピチンガはレッドコロソマ、ピラピランガはカリブ海のハタなので注意。

ちなみに、方言のようなものでピラピタンガpirapitanga というのがあるが、こう発音される地域にいるブリコンは別種であり、主に Brycon orbignyanus がそう呼ばれているようだ。

本種は黄金の川の虎ことドラドに擬態していると良く書かれているが、一方でドラドがピラプタンガに擬態しているとも書かれている。日本語の文献では埒があかないので、現地の論文を探した。

で、これである

https://www.scielo.br/j/ni/a/TKtzH9KtfJgmhLkFv3x3szG/?lang=en

以下に要点を記していく

1.ドラドの幼魚は透明度5メートルのかなり澄んだ水域に生息する

2.そこには同所的にピラプタンガが生息するが、餌としては大きすぎる

3.ドラド幼魚の餌は同所的に生息するアスティアナックスやモンクホーシャである。

4.カラーパターンと尾柄部から尾鰭に伸びる黒いラインはピラプタンガとドラド幼魚で類似している。これはドラド幼魚はドラド成魚と比べて尾鰭が赤く尾鰭の黄色味が薄いことによる。

5.ドラドの幼魚はピラプタンガの群れの中心で多くの時間を過ごし、捕食の時のみ群れの端に移動する。

6.ピラプタンガ群中にいる時の方が単独時よりも、ドラド幼魚の餌に対する捕食行動の頻度は統計的に有意に増加した。

7.成魚のドラドは積極的にピラプタンガの群れを避けて採餌している。

とのことである。つまり、ピラプタンガにドラドの幼魚が攻撃的な擬態をしていると言うのが現代科学の出した答えのようだ。

なお、他にも興味深いことが書かれており、ドラドはなんと体長の0.7倍もの大きさのピラプタンガを捕食したという。これはピラプタンガが採餌中のことであったようであり、7と合わせて考えると、成魚による幼魚の捕食を避ける機構である可能性がある。水面の果物を好むピラプタンガの捕食行動時なら、ドラド幼魚は混ざることが少ないと考えられるためである。

ピラプタンガの動画をいくつか貼っておくので良ければ見てほしい。その水の透明度に注目である。

まずこれ

https://x.com/avnationsc/status/922175735548317698?s=46&t=4wb6IeEnuQ9GgnhbnERcCQ

ピラプタンガがフルーツを頑張って食べる動画である。かわいい

次はこれ

https://youtu.be/Olgfz6FnZLA?si=A-Gzs0RqptG7-0AM

ピラプタンガが群れの中に侵入したドラドに捕食される様子。ドラドかっこいい

最後にこれ

https://youtu.be/eIzKkJdHoa0?si=R05l828Zb7W8t0l9

ピラプタンガはオマキザルが落とす食べ残しのフルーツを求めて猿の群れを追うらしい。

最後にこの画像を見て終わろうか。f:id:osio-gomizo:20240108072149j:image

引用元 https://www.vivabonito.com.br/praca-da-liberdade-bonito-ms/

ブラジル、マットグロッソドスル州にあるというピラプタンガ広場である。おそらく世界で1番ブリコンが輝いている場所だろう。またいかにブラジルでは有名な魚かと言うことも感じられる。一度は訪れてみたいものである。

 

ブリコンのお話②

気分が乗っているので続けて書いている。

今回はブリコンと言う魚についてさらに掘り下げたい。ブリコンは、アメリカの図鑑だとサウスアメリカントラウトとして掲載されていると言う。南米には今でこそ日本人やヨーロッパ人の持ち込んだニジマスブラウントラウトが泳ぐが、本来サケマス類が生息しない。その昔、南米に入植したヨーロッパ人たちは、紡錘形で口が大きく、流れに住む脂ビレのあるこの魚に故郷で見慣れたトラウトの名を与えた。なお、近縁なドラドはサウスアメリカンサーモンと呼ばれるそうだ。

では実際のところ、彼らは何の仲間なのかと言えば、カラシンである。ピラニアやネオンテトラの仲間と言えば良いか。南米で大繁栄を遂げた淡水魚のグループであり、日本の魚で最も近縁な物をあげるなら、強いて言うならナマズである。

脂ビレはサケ科のみならず、カラシンの特徴でもある。(ナマズ目の特徴でも)実は脂ビレを持つ魚同士は特に近縁ではなく、なんなら脂ビレは複数回獲得されている、という面白い話があるのだが、これもまた次の機会に取り上げよう。

ブリコン Bryconという学名は、fish baseによるとギリシャ語bryko(噛む)に由来するという。その名の通り、ブリコン属の魚の歯は発達しており、前回取り上げたBrycon alburnusのような魚食性の高い種では細かい尖った歯、ピラプタンガのような植物食傾向の高い種では人間のような先の平たい歯が口にびっしりと並ぶ。これはドラドとの相違点でもあり、雑食性であるブリコン属の生態をよく示している。なお、カラシン全般に歯は発達しているため、ブリキ〜やブリコ〜あるいは〜ブリコンといった学名は多くのカラシンに付けられている。

ブリコン属は現在46種が知られるが、まだまだ未記載種の多い分類群だと考えられる。今後の研究に期待したい。

実はブリコン、日本では馴染みのない魚だが、アマゾンでは漁獲量全体の中で重量にして第5位をしめる重要な食用魚として知られる。確かに南米の魚市場を写した写真を検索してみれば、大型ナマズやパクーに混じり、とても細かく骨切りされたブリコンが散見される。2022年度データにおける日本で5番目に獲れている魚はスケトウダラだが、アマゾンの人々にとってみれば、もしかすると我々におけるタラ、もしくは6位のブリ(ブリコンだけに…)のような身近な故郷の味なのかもしれない。これはアマゾンを訪れたことのある某熱帯魚店店長に教えてもらったことだが、現地では手のひらサイズのブリコンは良いおやつといった感覚で食べられてしまうそうで、日本へのブリコンの輸入が少ない一因だそうである(笑)

さて、次は観賞魚としてのブリコンの話だが、ブリコンは国内では全体的に知名度が低く、あまり人気もない。その地味さ、気の荒さ、泳ぎ回る生態と大きさが原因の全てだろう。

地震大国にして面積の狭い日本では、大型水槽はどうしても避けられる。なので人気の熱帯魚はどうしても小型魚中心となるし、大型魚でもあまり泳がない古代魚のようなものが中心となるのは仕方ない話である。そして中、大型カラシンというマイナージャンルに絞ってみても、パクー類のように群れさせるにはあまりにも気性が荒く、かと言って牙魚のような際立ったものがあるわけでなく、the魚、なその姿は人気が出にくいのもまあ仕方ないことである。

その上、46種あると言ったはいいものの基本的に入荷時に種名が付いていることは無いのもマイナスポイントかもしれない。ブリコンが入荷する際のインボイスネームは、大体シルバードラドやタイガードラドのような有名なドラドにあやかったもの、レッドフィンブリコンやシルバーブリコンといった見た目の印象からつけたもの、そしてブリコン属で1番有名であろうドラドのおやつことピラプタンガ(後述)の名前をとりあえずつける、このうちのどれかである。なので、同じ名前で別の種類が来るし、別の名前で同じ種類が来る。これはコレクション性と言う点で最悪である。

次回はピラプタンガに絞って話をしようと考えている。おまけにブリコンの画像を貼っておく

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Brycon sp.

ブリコンのお話①

読者の皆様、あけましておめでとう御座います。

ヌタウナギの話が中途半端なところで止まったままだが、ひとまず許してほしい。必ず書く。

 

今回は何の話なのかというと、ブリコンである。皆さん、ブリコンをご存知だろうか?もちろんここで言うブリコンは〜BLEACH CONCEPT COVERS〜のことではない。検索して出てくるのはそちらばかりだが、今回の主役は不人気なデカいカラシン、Brycon属のお魚である。

ところで読者の皆様は故グランデ・オガワ氏をご存知であろうか?熱帯魚にそこそこの関心がある方、古くからこの趣味をやっていらっしゃる方ならご存知だろうと思うが、アマゾンに移住し、多くの熱帯魚を日本に紹介したと同時に、釣り人としても有名な方であった。そんな彼のブログには、こう書かれている。

『グランデ・オガワの大好きな魚族シルバー・ドラド(ブリコン類)』(ドラードの研究2

http://amazonfishing.blog134.fc2.com/blog-entry-7.html?spより)

そう、ブリコンとはかのグランデ・オガワ氏も愛した魚なのである。なのに我々はブリコンについて何も知らず、何も語っていないではないか。と言うことで、語るわけである。

日本語でブリコンについて書かれた記事を探すと、まとまっているものは先述のグランデ・オガワ氏のブログ内、『シルバードラドの研究』と題された2ページがほとんど唯一と言って良い。実は過去にはもう少し情報が得られたのだが、Yahoo!ブログと共に闇へと消えた。

リンクを貼っておく

http://amazonfishing.blog134.fc2.com/blog-entry-9.html

他に出てくるのは、飼育個体の様子を載せたブログとショップの入荷情報ばかりである。

ここまで、前置きのつもりが長くなってきているので、今回は私がブリコンに魅了されたきっかけだけを書いて終わりとしたい。

2020年秋、3年と少し前のことである。それまでポリプテルスとシクリッドを中心にカラシンはコロソマとタライーラ程度しか飼っていなかった私が、アクアライフ誌だったかなんだったのか、何かの特集でみたドラードの姿に魅力されてしまったのである。ドラードについてもまたおいおい記事は書こうと思っているが、今回はまあ置いておく。そのドラードはあまりにも一般家庭で飼育するには大きいのだ。そんな折、ヤフオクでニュータイガードラドなる魚を発見した。どうやらこのドラド?は30センチ程度らしい、調べてそう知った私は迷わずこの魚を落札した。一万くらいだったと思う。下の画像の個体である

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ニュータイガードラド 

Brycon cf. alburnus

赤みがかったヒレ、金色に光る鰓蓋と目、大きく裂けた口に魚らしいギラギラの流線型の体。何もかもが魅力的だった。今にしてみれば、ドラドなんかよりずっとかっこよかった。そう、この魚こそが私が初めて飼育したブリコンである。タイガードラドの名で入荷する魚はオリゴサルクス属とブリコン属があるが、本個体はブリコン属のもので、特徴的な頭の形などからおそらくBrycon alburnusかその近縁種であろう。この個体のために60ワイド水槽を買ったことを覚えている。しかしこの個体は一年ほどで、脳震盪だったのか何なのか、ふらふらと泳いだ後死んでしまった。

これ以降、ニュータイガードラドはおそらく輸入されていないが(2024年1月現在)、私は再びこの魚に会うことをずっと夢に見ている。

と同時に、他のブリコンへも興味が広がっていくのである…

 

ヌタウナギのお話③

 更新が遅くなり申し訳ない。非常に多忙(そんなことはないが)ゆえ、月3更新くらいの気持ちでご覧いただけると助かる。

 さて、朝5時からヌタウナギの調理が始まった。この日、提供したヌタウナギ料理は以下の通りである。

 

ヌタウナギコチュジャン炒め

ヌタウナギ焼きそば

ヌタウナギプルコギ

ヌタウナギの頭ご飯

ヌタウナギの味噌汁

焼き棒アナゴ

ヌタウナギの唐揚げ

ヌタウナギの刺身

ヌタウナギの叩き

 

メモしておけば良かったのだが、生憎記憶頼り故本当にこれだけだったのか自信が持てない。参加者の方でこれが抜けてるとかあればコメントいただきたい。

さて、ヌタウナギの調理である。まず、冷凍ヌタウナギ3キロを解凍すべく、常温放置とした。ヌタ以外の必要な食材は前日に大量に買い込んでおいた。

この朝、実はとあるアクシデントが起こっていた。そう、飼育用のヌタウナギが1匹飛び出していたのである。ロフトベッドの下に水槽を置いていたのだが、朝見るとヌタウナギがのたうっていたあの衝撃は忘れられない(笑)。この個体は出血していたため、食用に回した。事前に園芸ネットで水槽の隙間をできる限り埋めておいたのだが、彼らには通用しないらしい。そして、もう一つのアクシデントは飼育ヌタ3匹のうち、飛び出していない個体が1匹瀕死となっていたことである。本個体は3匹の中で唯一のオスらしい個体であったため、小ぶりで気に入っていたのだが、残念であった。原因は不明だが、水温の急変に耐えかねたのかもしれない。

こうして飼育ヌタは1匹となり、食用活ヌタが4匹となった、はずなのだが、この時点で5匹以上は活ヌタがいたのである。どうやら多めに入れてくれていたようだ…

ヌタウナギは、パーティに来てくださる皆様に是非見ていただきたかったので、そのままにしておくとして,とりあえず冷凍品の調理を優先することとした。冷凍されたヌタウナギはかなり扱いやすく、またムチンの構造が変化するのか、ヌタもナメクジの粘液レベルまで扱いやすくなっていた(例えがわかりにくい…?)。ただ、冷凍されながら出血しヌタを出したようで、かなり血生臭い状態だったのが印象深い。触った感触は、生時にましてハリがなくなっており、もはや脊索があるのか怪しいレベルにグニャグニャであった。

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冷凍品は、皮を剥いて頭を落とす料理に使うこととした。動かないヌタウナギは通常の魚よりかなり捌きやすく、首を落とした後は皮を掴んで靴下を脱がすように剥くことができる。ただ、これはかなり滑るのでラバー付き軍手が必要である。そのあとは、エラと内蔵を簡単に毟るだけである。

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ここで、詳しくヌタウナギの体の構造を見ていきたい。先程頭を落とすといったのだが、ヌタウナギの頭とは一体どこをさすのだろうか。かつて、ヌタウナギヤツメウナギ含む他の全ての脊椎動物の姉妹群であり、厳密には脊椎動物ではないと言う分類がされていた時代があり、この時に狭義の脊椎動物ヌタウナギを合わせた分類群を有頭動物と呼んだ。尤も現在ではヌタウナギヤツメウナギと近縁であるとされているが、有頭動物と呼ばれた以上頭はあるはずだ。

一般的に魚の頭といえばエラまでを指すものだと思うが、ヌタウナギのエラというのは予想外に後ろにある。以下のイラストを見てほしい(雑なのは許してください…)

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つまり、ヌタウナギは顔のパーツ(目、鼻、口)がある部位と頭の後端までの間によく分からない空間が存在するのだ。この、謎の空間問題は捌けばすぐ解決した。ここには、通称『謎の筋肉』と呼ばれる顎を開閉(⁈)する筋肉が存在するのである。おいおい、無顎類の顎が開閉ってなんだよ、と思われるだろうが、なんとこの顎、左右に開閉するのである。

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上の画像のような歯(実際には顎口類の歯とは相同でない角質歯。この歯、上の図で示したがコノドントとなんとなく似ている。これも相同ではないはずだが)が左右に生えているチョウ型の肉質の板の裏側中心に腱が生えており、それが謎筋肉と接続されているのだ。つまり、謎筋肉の弛緩、収縮によってこのチョウ型板が前後し、口の開口部の大きさより少し大きいため結果的に左右に開閉することとなる。この運動で死肉を削り取ると考えられる。なんとも上手い仕組みである。

 また、1枚目のイラストを見ていただけるとわかると思うが、肛門の位置がかなり後ろである。多くの場合、魚の肛門は臀鰭の直前に開口するため、細長い魚でも肛門は体の真ん中少し後ろあたりが多く、半分は長い尾なのである。

そう考えると、ヌタウナギとはなんとも異様なバランスの魚であり、大きな頭と長い胴体、そしてほとんどない尾で構成されていることになる。近縁なヤツメウナギはそこまで異様な体制ではないことを考えると、ヌタウナギで二次的に進化した形質であろうとは思われるが、奇妙なものである。

そして謎筋肉であるが、先ほどの説明から考えて頭尾軸方向に筋繊維が走っていると思われるだろうが、なんと背腹軸方向に走っているのである。これが私が謎筋肉と呼ぶ所以であるが、この向きである意味はいまだによくわからない。

 

長くなってしまったので最後に尾籠な話を書いておくこととする(笑)と、この謎筋肉、生きたまま捌くとかなり卑猥な動きをする。是非実際に捌いてみて頂きたい。失笑間違いなしである。

次回こそ、料理編です…

ヌタウナギのお話②

さて、こうして届いたヌタウナギ達であるが、この画像を見てほしい

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よく見ると、2種類いることがおわかり頂けるだろうか?

ここで少しヌタウナギ類の分類について軽く解説する。日本で見られるヌタウナギ科の魚は、2属5種が知られている。ホソヌタウナギ属とヌタウナギ属である。

ところで、時折メクラウナギヌタウナギに改名されたと思っている人がいるが、実際には異なる。メクラウナギはホソヌタウナギに改名されたのであり、ヌタウナギは昔からヌタウナギである。

なお、ヌタウナギ科の学名はMyxinidaeであり、旧メクラウナギ属がMyxinであるから本来はメクラウナギ科と呼ばれていた。しかしホソヌタウナギとなったことによりヌタウナギがホソヌタウナギ科というのは何とも引っかかるので、学名との不一致は仕方ないということで、現在Myxinidaeはヌタウナギ科と呼ばれている。なんとも気持ちの悪い話である。個人的な意見であるが、ポリコレで和名を変更するのは余り好きな流れではない…

余談はここまでにして、ヌタウナギの分類の話に戻ろう。ホソヌタウナギ属、ヌタウナギ属ともにほとんど全ての種が深海魚であるのはご存知の通りであるが、実は一種のみ15メートル程度に住む浅海性の種が存在する。標準和名ヌタウナギと呼ばれる、Eptatretus burgeriである。上の画像で肌色のものが本種である。

では、黒いものは何かというと、これはクロヌタウナギEptatretus atamiである。こちらはイメージ通りの深海魚で水深45〜400mに生息する。

これほどまでに生息水深が異なると、好む温度というものは著しく異なる。実際、ヌタウナギは20℃程度まで生息するようだが、クロヌタウナギは10℃以下を好む。

なぜこんな話をしたのかというと、飼育する上で電気代が高価な水槽クーラーを使いたくない私は、クロヌタは飼育できないためである(笑)

ヌタウナギ達が我が家に届いた時、この好む水温の違いを実感させられた。クール便で届いたのだが、元気に動き回るクロヌタに対してヌタウナギはみんなひっくり返ってダランと垂れていたのである。これ、飼育大丈夫か…と考えつつも、用意しておいた20℃程度の水槽に慎重に水合わせをしていく。とりあえずヌタウナギ3匹と、クロヌタ1匹を試してみることとした。

すると、驚くべきことに、少しずつ元気を取り戻していくヌタウナギに対してクロヌタはみるみる弱っていったのである。

私はとりあえず、クロヌタを冷蔵庫の生簀(仮)に移動しつつヌタウナギを見守った。

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画像は選ばれし3匹のヌタウナギ達である。

 

さて、ここで一休みしてから夜8時、翌日に迫るヌタウナギパーティーの用意が始まった。3キロの冷凍ヌタの冷蔵庫解凍を始めつつ、活ヌタ達の下準備をするのだ。

ヌタウナギの有名な食べ方として、棒あなごというものがある。棒に刺して干したヌタウナギを皮が焦げるまで焼くというシンプルな料理だ。せっかくこんなに個体数があるのだから、棒あなごは試したい。しかし、棒がない。ということで、紐あなごを作ることとした(笑)

作り方はごく単純である。まずヌタウナギの内蔵を抜き、頭に開けた穴に紐を縛って吊るすだけだ。が、これが予想外に難しい。活ヌタウナギというのは大量のヌタを分泌するため、とても手で掴めないのだ。ラバー軍手を装着し、セリアの出刃包丁を振るう。ヌタウナギの皮はイールスキンとして財布やカバンに使われるほど丈夫であり、割くのは容易でない。その上、ヌタウナギは皮の下に血液を溜めることができるようで、裂いた隙間から血が吹き出し、返り血まみれになってしまった。

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ヌタウナギの血液というのは特殊で、脊椎動物としては唯一浸透圧が海水と同じである。軟骨魚類アンモニアで浸透圧調整をし、硬骨魚類が腎臓で浸透圧調整をする中、ヌタウナギはそもそも浸透圧調整が必要ない血液を持つのである。だからなのかは不明だが、妙な臭いのする血にまみれ、何とも悲しい気持ちになってしまった。

苦しみつつ、シンクを巨大スライムにしつつ、2時間かけてなんとか捌ききった5匹をベランダに吊るした様子がこちらである。なお、この時4匹程度はまだ動いていた…

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時間は深夜11時過ぎ、キャス等しつつ朝を待つ。朝5時から翌日の料理の仕込みを始めるためだ。

 

続く…

 

ヌタウナギのお話①

 ヌタウナギ、皆さんはどのようなイメージをお持ちであろうか?ヌルヌルして気色悪い深海の魚モドキ、と言ったところであろう。

 実際、大きくは違わないのであるが、飼育を試みた人は一体どれほどいるのだろう?今回、私がヌタウナギに魅了され翻弄された顛末を語りたい。

 そもそものきっかけは、ツイキャスであった。深夜に正常な判断力を失った状態で配信をするのはお勧めしない。何故なら、意味不明な生物の飼育をする羽目になるからである。当時サカバンバスピスが大流行?していたのであるが、そこそこ影響力のある生き物系アカウントがサカバンバスピスがヌタ、ヤツメに近縁であるとツイートしていたのが目についた。

 そんな細かいことどうでもいいと思われるかもしれないが、いわゆる無顎類とは多系統群である。何が言いたいかと言えば、サカバンバスピスは、ヌタ、ヤツメの含まれる円口類よりもむしろ我々顎口類に近縁な系統に含まれるのである。わかりやすく言えば、そもそも脊椎動物の初期に存在した複数のグループは皆顎がなく、そのうち一つのグループのみが後に顎を得るのだが、その顎を得るグループの途中、顎を得る前に分岐したのがサカバンバスピス、とざっくり捉えていただきたい。個人的に、このような誤解が広まるのはあまり好ましくないので、キャスで文句をたれていたのだが、そのうちにヌタウナギの話になった。

 ヌタウナギは飼育できるのか?そんな話題になり、ネット上を調べるも、少なくとも日本では個人の飼育記録は、たった一つのブログに5記事あるかないかと言ったところであった。そして、私はこのサイトを見つけてしまったのである。

http://www2.tbb.t-com.ne.jp/enoshimaanago/index.html

ヌタウナギ販売、その文字に心が揺さぶられた。発送は本州のみ、しかし今の私は本州に住んでいる…これは、飼うしかないのではないか?

そんな揺れ動く私を、キャスの視聴者たちが地獄へと誘った。

そうして私は、地獄への道を突き進むべく、注文メールを送信してしまったのである…

 そして早くも、ここで問題が生じた。活ヌタウナギの注文は10匹が最低というではないか。これは困った。私が当時用意できたのは50センチ衣装ケース改造水槽のみであり、10匹はとても収容不能である。そこで、とりあえず3匹は生かして残りは食べようということになったのである…

  さて、7匹のヌタウナギを食べるとなると、1人では厳しい。円口類特有の莫大なビタミンAの量的に1人が1日に5匹以上食べるのは過剰摂取になり得るし、珍しい食材なのでできるだけ多くの人に食べてみてもらいたい。

ということで、複数箇所で食べたい人を募集したのであるが、なんと10人以上もの人が食べたいという…ヌタウナギが足りない。そうして私は、追加で3キロの冷凍ヌタウナギを購入したのである…これでは本末転倒である。

そして、奴らが届いた。

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続く…