大塵塩蔵雑記帳

異常者大害虫の備忘録

ブリコンのお話③

今回は皆さんの待ちに待っていたであろう、ピラプタンガのお話である。

ピラプタンガ piraputanga はブリコン属の中で最も名の知れたものの一つであろう。学名は Brycon hilarii である。パラグアイ川パラナ川が主な生息域である。日本ではピラムタンガと呼ばれることもあるが、ピラプタンガが綴りとしても現地の発音(動画を見る限り)でも正しい。その名は先住民の言語で、赤い魚を意味する。なおピラピチンガはレッドコロソマ、ピラピランガはカリブ海のハタなので注意。

ちなみに、方言のようなものでピラピタンガpirapitanga というのがあるが、こう発音される地域にいるブリコンは別種であり、主に Brycon orbignyanus がそう呼ばれているようだ。

本種は黄金の川の虎ことドラドに擬態していると良く書かれているが、一方でドラドがピラプタンガに擬態しているとも書かれている。日本語の文献では埒があかないので、現地の論文を探した。

で、これである

https://www.scielo.br/j/ni/a/TKtzH9KtfJgmhLkFv3x3szG/?lang=en

以下に要点を記していく

1.ドラドの幼魚は透明度5メートルのかなり澄んだ水域に生息する

2.そこには同所的にピラプタンガが生息するが、餌としては大きすぎる

3.ドラド幼魚の餌は同所的に生息するアスティアナックスやモンクホーシャである。

4.カラーパターンと尾柄部から尾鰭に伸びる黒いラインはピラプタンガとドラド幼魚で類似している。これはドラド幼魚はドラド成魚と比べて尾鰭が赤く尾鰭の黄色味が薄いことによる。

5.ドラドの幼魚はピラプタンガの群れの中心で多くの時間を過ごし、捕食の時のみ群れの端に移動する。

6.ピラプタンガ群中にいる時の方が単独時よりも、ドラド幼魚の餌に対する捕食行動の頻度は統計的に有意に増加した。

7.成魚のドラドは積極的にピラプタンガの群れを避けて採餌している。

とのことである。つまり、ピラプタンガにドラドの幼魚が攻撃的な擬態をしていると言うのが現代科学の出した答えのようだ。

なお、他にも興味深いことが書かれており、ドラドはなんと体長の0.7倍もの大きさのピラプタンガを捕食したという。これはピラプタンガが採餌中のことであったようであり、7と合わせて考えると、成魚による幼魚の捕食を避ける機構である可能性がある。水面の果物を好むピラプタンガの捕食行動時なら、ドラド幼魚は混ざることが少ないと考えられるためである。

ピラプタンガの動画をいくつか貼っておくので良ければ見てほしい。その水の透明度に注目である。

まずこれ

https://x.com/avnationsc/status/922175735548317698?s=46&t=4wb6IeEnuQ9GgnhbnERcCQ

ピラプタンガがフルーツを頑張って食べる動画である。かわいい

次はこれ

https://youtu.be/Olgfz6FnZLA?si=A-Gzs0RqptG7-0AM

ピラプタンガが群れの中に侵入したドラドに捕食される様子。ドラドかっこいい

最後にこれ

https://youtu.be/eIzKkJdHoa0?si=R05l828Zb7W8t0l9

ピラプタンガはオマキザルが落とす食べ残しのフルーツを求めて猿の群れを追うらしい。

最後にこの画像を見て終わろうか。f:id:osio-gomizo:20240108072149j:image

引用元 https://www.vivabonito.com.br/praca-da-liberdade-bonito-ms/

ブラジル、マットグロッソドスル州にあるというピラプタンガ広場である。おそらく世界で1番ブリコンが輝いている場所だろう。またいかにブラジルでは有名な魚かと言うことも感じられる。一度は訪れてみたいものである。