大塵塩蔵雑記帳

異常者大害虫の備忘録

ブリコンのお話④ 〜ドラド系ブリコン〜

 皆様、お久しぶりです。

ブリコンのお話もついに第4回になるが、ここからは特徴ごとに魅力的なブリコン達をいくつかのグループに分けて紹介していきたい。

 初回となる今回は『ドラド系のブリコン』を紹介したい。まず、実を言うとドラド系ブリコンなどという概念は魚類学にも熱帯魚界隈にも存在しない。何故なら今私が作った言葉であるからだ。

 それでは私がどのような魚をこのグループに想定しているのか、というと、いわゆるドラドカラシン(Salminus)を思わせるような、低い体高と尖った頭を持つブリコン達である。私が彼らをドラド系と名付けたのにはもう一つ理由があり、彼らは〇〇ドラドとして時にはドラドカラシンの一種として流通するためである。

 近縁なBryconとSalminusの2属だが、その違いについてよく、『草食のブリコン、肉食のドラド』などと言うことがある。実際ブリコンは水草や木の実、飼育下では葉野菜なども好んで食べる。しかし、草食というのは言い過ぎであり、多くのブリコンは小魚も好んで捕食する。この肉食性にはブリコン属内で種ごとに大きな差があり、有名なピラプタンガなどは草食性の高いものと思われる。一方、ピラプタンガの丸い顔とは対照的な尖った顔と裂けた口を持つブリコンも存在し、彼らは強い魚食性を持つと思われる。そのようなものを、私はドラド系ブリコンと呼びたい。まあ、私がニュータイガードラドにバナナを与えてみたところ普通に食べていたので所詮ブリコン、といった感じだが…

 さて、このタイプのブリコンはここ数年入荷がない。つい最近おっ?と思うような物が来ていたが、1匹のみの入荷でさらに通販に出る前に売約されていたため、未入手である…

このタイプに含まれるブリコンの流通名として私が確認しているものは、ニュータイガードラド、キングドラドフィッシュ(⁈)、スピンドルドラードなどである。ただ、スピンドルドラードはドラドとして流通したためここにまとめたが、魚食系ブリコンでないのでこのグループで良いのか微妙ではある。加えて、もう一つ言っておくとタイガードラドという名前で流通する魚にはオリゴサルクス属のものもあり、ブリコン属のものはエクアドルからくるニュータイガー名義のもののみである点である。

このうち、おそらくニュータイガードラドはエクアドルに分布する顔尖りブリコン3種であるBrycon alburnus、B. dentex 、B. atrocaudatus周りの種であり、スピンドルドラードはBrycon nattereri類似種ではないかと思う。なおニュータイガー3種は臀鰭条数で明確に見分けられるので、気になる人は数えてみると良い。キングドラドフィッシュに関しては、分布域における類似種を見つけられなかった。以下は筆者が以前飼育していたB. alburnusと思われる個体である。他2種は、私はあいにく画像を持ち合わせないため、検索していただきたい。共にスレンダーで美しいブリコンたちである。

f:id:osio-gomizo:20240226011843j:image

………………………………………………

無駄話〜ブリコンの分類①〜

ここからは蛇足なので、分類学的なことに興味のある人だけ読んでもらえたら良いのだが、実はニュータイガードラドに関しては、本当にブリコンで良いのか?という分類学上の問題が存在している。

以下の二つの分子系統解析を見ていただきたい。系統樹のところのみで良い。

https://bmcecolevol.biomedcentral.com/articles/10.1186/1471-2148-14-152

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cla.12345

ブリコン属が、サルミヌス属(ドラード)によって二つに分断されているのがお分かりいただけただろうか?系統分類のみを正式な分類と認め、側系統群を認めない現在主流の分類学の考え方によれば、ブリコン属は単系統でないため正当な分類学ではないことになってしまう。

 この問題点を是正する場合、二つのアプローチがあり、一つはサルミヌスやキロブリコンを無効名として抹消し全てをブリコン属にまとめる、そしてもう一つが、ブリコン属模式種(その属の基準となる種)であるB. falcatusを含まないサルミヌスの上に配置されたブリコンたちを別属とする方法である。前者はブリコン一般と系統的に十分な差異があり、形態でもしっかりまとまったグループであるサルミヌスを抹消するなど現実的でないため、後者が推奨される対応であろう。

その、別属になるべきグループにはアンデス山脈周辺に分布するブリコン数種が含まれるが、①の研究を見るとなんとB aff. atrocaudatusが含まれるではないか。aff.とは、その種に似ているが未記載の可能性がある種、であり、つまり上記3種周り、つまりニュータイガードラドと呼ばれるものである可能性が非常に高い。そしてエクアドルといえばアンデスを挟む小国である。よって、ニュータイガードラドは今後ブリコン属から外れる可能性が十分に高いということは頭に入れておくと良いかもしれない。

簡潔にまとめると、実はニュータイガードラドと他のブリコンよりも、ドラドと他のブリコンの方が近いかもね、といった話である。まあ、今後の研究次第であり話半分に聞いておいてほしい。