大塵塩蔵雑記帳

異常者大害虫の備忘録

ヌタウナギのお話③

 更新が遅くなり申し訳ない。非常に多忙(そんなことはないが)ゆえ、月3更新くらいの気持ちでご覧いただけると助かる。

 さて、朝5時からヌタウナギの調理が始まった。この日、提供したヌタウナギ料理は以下の通りである。

 

ヌタウナギコチュジャン炒め

ヌタウナギ焼きそば

ヌタウナギプルコギ

ヌタウナギの頭ご飯

ヌタウナギの味噌汁

焼き棒アナゴ

ヌタウナギの唐揚げ

ヌタウナギの刺身

ヌタウナギの叩き

 

メモしておけば良かったのだが、生憎記憶頼り故本当にこれだけだったのか自信が持てない。参加者の方でこれが抜けてるとかあればコメントいただきたい。

さて、ヌタウナギの調理である。まず、冷凍ヌタウナギ3キロを解凍すべく、常温放置とした。ヌタ以外の必要な食材は前日に大量に買い込んでおいた。

この朝、実はとあるアクシデントが起こっていた。そう、飼育用のヌタウナギが1匹飛び出していたのである。ロフトベッドの下に水槽を置いていたのだが、朝見るとヌタウナギがのたうっていたあの衝撃は忘れられない(笑)。この個体は出血していたため、食用に回した。事前に園芸ネットで水槽の隙間をできる限り埋めておいたのだが、彼らには通用しないらしい。そして、もう一つのアクシデントは飼育ヌタ3匹のうち、飛び出していない個体が1匹瀕死となっていたことである。本個体は3匹の中で唯一のオスらしい個体であったため、小ぶりで気に入っていたのだが、残念であった。原因は不明だが、水温の急変に耐えかねたのかもしれない。

こうして飼育ヌタは1匹となり、食用活ヌタが4匹となった、はずなのだが、この時点で5匹以上は活ヌタがいたのである。どうやら多めに入れてくれていたようだ…

ヌタウナギは、パーティに来てくださる皆様に是非見ていただきたかったので、そのままにしておくとして,とりあえず冷凍品の調理を優先することとした。冷凍されたヌタウナギはかなり扱いやすく、またムチンの構造が変化するのか、ヌタもナメクジの粘液レベルまで扱いやすくなっていた(例えがわかりにくい…?)。ただ、冷凍されながら出血しヌタを出したようで、かなり血生臭い状態だったのが印象深い。触った感触は、生時にましてハリがなくなっており、もはや脊索があるのか怪しいレベルにグニャグニャであった。

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冷凍品は、皮を剥いて頭を落とす料理に使うこととした。動かないヌタウナギは通常の魚よりかなり捌きやすく、首を落とした後は皮を掴んで靴下を脱がすように剥くことができる。ただ、これはかなり滑るのでラバー付き軍手が必要である。そのあとは、エラと内蔵を簡単に毟るだけである。

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ここで、詳しくヌタウナギの体の構造を見ていきたい。先程頭を落とすといったのだが、ヌタウナギの頭とは一体どこをさすのだろうか。かつて、ヌタウナギヤツメウナギ含む他の全ての脊椎動物の姉妹群であり、厳密には脊椎動物ではないと言う分類がされていた時代があり、この時に狭義の脊椎動物ヌタウナギを合わせた分類群を有頭動物と呼んだ。尤も現在ではヌタウナギヤツメウナギと近縁であるとされているが、有頭動物と呼ばれた以上頭はあるはずだ。

一般的に魚の頭といえばエラまでを指すものだと思うが、ヌタウナギのエラというのは予想外に後ろにある。以下のイラストを見てほしい(雑なのは許してください…)

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つまり、ヌタウナギは顔のパーツ(目、鼻、口)がある部位と頭の後端までの間によく分からない空間が存在するのだ。この、謎の空間問題は捌けばすぐ解決した。ここには、通称『謎の筋肉』と呼ばれる顎を開閉(⁈)する筋肉が存在するのである。おいおい、無顎類の顎が開閉ってなんだよ、と思われるだろうが、なんとこの顎、左右に開閉するのである。

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上の画像のような歯(実際には顎口類の歯とは相同でない角質歯。この歯、上の図で示したがコノドントとなんとなく似ている。これも相同ではないはずだが)が左右に生えているチョウ型の肉質の板の裏側中心に腱が生えており、それが謎筋肉と接続されているのだ。つまり、謎筋肉の弛緩、収縮によってこのチョウ型板が前後し、口の開口部の大きさより少し大きいため結果的に左右に開閉することとなる。この運動で死肉を削り取ると考えられる。なんとも上手い仕組みである。

 また、1枚目のイラストを見ていただけるとわかると思うが、肛門の位置がかなり後ろである。多くの場合、魚の肛門は臀鰭の直前に開口するため、細長い魚でも肛門は体の真ん中少し後ろあたりが多く、半分は長い尾なのである。

そう考えると、ヌタウナギとはなんとも異様なバランスの魚であり、大きな頭と長い胴体、そしてほとんどない尾で構成されていることになる。近縁なヤツメウナギはそこまで異様な体制ではないことを考えると、ヌタウナギで二次的に進化した形質であろうとは思われるが、奇妙なものである。

そして謎筋肉であるが、先ほどの説明から考えて頭尾軸方向に筋繊維が走っていると思われるだろうが、なんと背腹軸方向に走っているのである。これが私が謎筋肉と呼ぶ所以であるが、この向きである意味はいまだによくわからない。

 

長くなってしまったので最後に尾籠な話を書いておくこととする(笑)と、この謎筋肉、生きたまま捌くとかなり卑猥な動きをする。是非実際に捌いてみて頂きたい。失笑間違いなしである。

次回こそ、料理編です…