大塵塩蔵雑記帳

異常者大害虫の備忘録

ブリコンのお話②

気分が乗っているので続けて書いている。

今回はブリコンと言う魚についてさらに掘り下げたい。ブリコンは、アメリカの図鑑だとサウスアメリカントラウトとして掲載されていると言う。南米には今でこそ日本人やヨーロッパ人の持ち込んだニジマスブラウントラウトが泳ぐが、本来サケマス類が生息しない。その昔、南米に入植したヨーロッパ人たちは、紡錘形で口が大きく、流れに住む脂ビレのあるこの魚に故郷で見慣れたトラウトの名を与えた。なお、近縁なドラドはサウスアメリカンサーモンと呼ばれるそうだ。

では実際のところ、彼らは何の仲間なのかと言えば、カラシンである。ピラニアやネオンテトラの仲間と言えば良いか。南米で大繁栄を遂げた淡水魚のグループであり、日本の魚で最も近縁な物をあげるなら、強いて言うならナマズである。

脂ビレはサケ科のみならず、カラシンの特徴でもある。(ナマズ目の特徴でも)実は脂ビレを持つ魚同士は特に近縁ではなく、なんなら脂ビレは複数回獲得されている、という面白い話があるのだが、これもまた次の機会に取り上げよう。

ブリコン Bryconという学名は、fish baseによるとギリシャ語bryko(噛む)に由来するという。その名の通り、ブリコン属の魚の歯は発達しており、前回取り上げたBrycon alburnusのような魚食性の高い種では細かい尖った歯、ピラプタンガのような植物食傾向の高い種では人間のような先の平たい歯が口にびっしりと並ぶ。これはドラドとの相違点でもあり、雑食性であるブリコン属の生態をよく示している。なお、カラシン全般に歯は発達しているため、ブリキ〜やブリコ〜あるいは〜ブリコンといった学名は多くのカラシンに付けられている。

ブリコン属は現在46種が知られるが、まだまだ未記載種の多い分類群だと考えられる。今後の研究に期待したい。

実はブリコン、日本では馴染みのない魚だが、アマゾンでは漁獲量全体の中で重量にして第5位をしめる重要な食用魚として知られる。確かに南米の魚市場を写した写真を検索してみれば、大型ナマズやパクーに混じり、とても細かく骨切りされたブリコンが散見される。2022年度データにおける日本で5番目に獲れている魚はスケトウダラだが、アマゾンの人々にとってみれば、もしかすると我々におけるタラ、もしくは6位のブリ(ブリコンだけに…)のような身近な故郷の味なのかもしれない。これはアマゾンを訪れたことのある某熱帯魚店店長に教えてもらったことだが、現地では手のひらサイズのブリコンは良いおやつといった感覚で食べられてしまうそうで、日本へのブリコンの輸入が少ない一因だそうである(笑)

さて、次は観賞魚としてのブリコンの話だが、ブリコンは国内では全体的に知名度が低く、あまり人気もない。その地味さ、気の荒さ、泳ぎ回る生態と大きさが原因の全てだろう。

地震大国にして面積の狭い日本では、大型水槽はどうしても避けられる。なので人気の熱帯魚はどうしても小型魚中心となるし、大型魚でもあまり泳がない古代魚のようなものが中心となるのは仕方ない話である。そして中、大型カラシンというマイナージャンルに絞ってみても、パクー類のように群れさせるにはあまりにも気性が荒く、かと言って牙魚のような際立ったものがあるわけでなく、the魚、なその姿は人気が出にくいのもまあ仕方ないことである。

その上、46種あると言ったはいいものの基本的に入荷時に種名が付いていることは無いのもマイナスポイントかもしれない。ブリコンが入荷する際のインボイスネームは、大体シルバードラドやタイガードラドのような有名なドラドにあやかったもの、レッドフィンブリコンやシルバーブリコンといった見た目の印象からつけたもの、そしてブリコン属で1番有名であろうドラドのおやつことピラプタンガ(後述)の名前をとりあえずつける、このうちのどれかである。なので、同じ名前で別の種類が来るし、別の名前で同じ種類が来る。これはコレクション性と言う点で最悪である。

次回はピラプタンガに絞って話をしようと考えている。おまけにブリコンの画像を貼っておく

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Brycon sp.